大分家庭裁判所 昭和41年(少ハ)2号 決定 1967年2月06日
少年 K・R子(昭二六・三・一五生)
主文
本件申請を棄却する。
理由
(本件申請の要旨)
少年は、昭和四一年六月七日筑紫少女苑を仮退院し、大分県大分郡○○町大字○、○藤○毅(保護司)のもとに帰住し、大分保護観察所の保護観察を受けていたものであるが、担当保護司の再度の就職斡旋にも拘わらず、これに長続きせず、家出を繰り返し、実母に対し金銭を無理に要求し、さらに不純異性交遊、文身、パチンコなどの行為がみられ、遂に担当保護司の指導にも従わず、かつ大分保護観察所から再度の説示を受けても、遵守すべき事項を無視して不健全かつ放縦な生活を続けるに至り、これらの所為は仮退院当時の特別遵守事項に明らかに違反しているものであり、少年の現在の生活態度や家庭環境、加えるに少年の極度にひねくれた反抗的衝動的傾向の強い性格的欠陥や仮退院後、保護司において環境の整備に力をいれていたのに、その効果が期待できなかつた現状を総合すると、少年に対し引続き保護観察を実施することは困難であり、再非行の虞は濃厚と言わなければならない。そこで、少年の自覚、反省を促し、矯正教育による人格の陶冶を図り、他方少年の受入れ環境を再整備し、適当な時期に再度の社会復帰を図る必要があり、この際少年を少年院に戻して収容することを相当として、本件申請におよぶというにある。
(本件の経緯)
当審判廷における少年の供述および少年の保護観察官に対する各質問調書によれば、少年は、昭和四〇年六月一五日、大分家庭裁判所において虞犯事実により初等少年院送致の言渡を受け、福岡県の筑紫少女苑に収容され、その矯正教育を受けたが、昭和四一年六月七日同少女苑の仮退院を許可され、爾来大分保護観察所の保護観察に付されていたが、同年六月一一日早くも帰住先の保護司宅を飛び出し、その後申請理由記載のような事実および非行の先行要因となる大分市内の公園等の徘徊など怠惰、放縦な生活を繰り返していた事実が認められ、以上の各事実は仮退院に際し、九州地方更生保護委員会が犯罪者予防更生法三四条二項各号、三一条三項の規定により定めた特別遵守事項に違反していることが明らかである。しかし本件各証拠および少年の当審判廷における供述によれば、少年は再婚した母の義父とうまく折合うことができず、そのような家庭環境における虞犯事実によつて前記のように少年院に送致されたのに、母が一度も少年院へ面会に来てくれなかつたばかりか、仮退院に際しても少年院へ出迎えに来てくれなかつたことなど、母の自分に対する冷たい態度に憤慨し、仮退院で社会復帰が許されても、母に反発して決して真面目になろうとする気持になれず、かえつて母を困らせようとして真面目になるまいとする考え方が強く内在していたため、仮退院後まもなくしてあえて不健全な生活態度に陥つたことが認められる。そこで少年が冷静になるか或いは親子関係の調整等により、以上のような実母に対する気持を排除できさえすれば、少年を少年院に戻してさらに矯正教育を施す必要は認められなかつたところ、少年は昭和四一年九月一九日の審判期日において、自分のこのような考え方が間違つていたことを自覚し、仮退院後における行動を深く反省し、少くとも自分のためにも今後は一日も早く立派に更生すべきであり、これが自己に与えられた唯一の道であると確信してこれを強く訴えるとともに、当裁判所もその少年の意欲を十分窺うことができたので、これらの諸事情を総合して、しばらく少年の動静(主として精神面)を観察し、本件申請の必要性はその後の観察を考慮したうえ判断すべきを相当として、前記審判期日に試験観察決定に付し、少年を大分県婦人相談所に補導委託した。当初少年は同所の規律を守り、精神面においても落ちついたかにみえたが、一か月余りして無断外出が二、三みうけられるようになつたので、そのような気のゆるみのないように、少年に対し反省を促そうとした矢先、同年一一月五日同所を一人で逃げ出したので、当裁判所において所轄警察署に所在捜査の援助依頼をするなどしたが、少年が逃走して三か月を経過した現在もなおその行方が判明しないばかりか、少年の行先をつきとめるべき見通しも全く立つておらない現状である。
(当裁判所の判断)
そこで、試験観察中、所在不明となつた少年に対する戻収容申請事件をいかに取扱うべきかであるが、このような現段階において少年に対する戻収容の必要性を判断することができず、かりに戻収容の必要性を肯定できるにしても、もともと本件申請を認容する戻収容決定は、少年の自由を拘束する裁判であつて、人権保障の建前から抗告の申立が一般に肯定されていることからみても、少年に対してその面前告知ないし審判期日における告知を必要と解すべきであり、少年の所在不明によつてこのような手続を履践できなくなつた以上、本少年に対する戻収容の可能性がなくなつたというべきであり、さりとて少年の所在をつきとめるべき見通しのつかない以上のような現状からみれば、本件申請を少年の所在が判明するまで放置することもまた相当でないと解される。(むしろ、少年の所在がその後において判明すれば、その時点における事情を考慮して、あらためて犯罪者予防更生法に基き戻収容の申請がなされるのが相当である。)そうだとすれば、本件申請は結局理由がないことに帰するので、これを棄却することとし、犯罪者予防更生法四三条一項、少年院法一一条三項、少年審判規則五五条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 野口頼夫)